椿説弓張月。関連書籍(再話作品)感想。児童書編・その4

『少年少女日本名作選 弓張月物語』 山中峯太郎著 誠文堂新光社 1953年
『小学生全集62 為朝ものがたり』 高藤武馬著 筑摩書房 1955年
『児童文学全集59 為朝ものがたり 朝島靖之助著 偕成社 1957?67?年

『少年少女日本名作選 弓張月物語』 山中峯太郎著 誠文堂新光社 1953年

昭和28年。まあぐだぐだ言うより前書きを見てもらった方が早いだろう。

『「椿説弓張月」という、大長編を、この名作選の1冊に盛り込むことは、とてもむずかしいので、その前半を紹介したいと思って、訳してみましたが、ほとんど、物語の筋だけを追うことになったのは残念です。』

つまり琉球篇は例によって例の如くカットだが、今回の理由は長すぎたからだ。やっぱり当時は沖縄の描写はまずかったって訳じゃないのかなあ。前篇後篇だけなら博覧強記を削ればなんとか収まっちゃうから、もう琉球篇や著者の個性が出まくった二次作品には巡り合えないのだろうか。八犬伝の二次作品と比べると皆優等生過ぎてレビューを書くのが難しい。

そうそう肝心の内容だが、さすがに遭難EDではなく難破した後仙人の島にたどり着いた紀平治と舜天丸が鶴を見上げ、新しい元気があふれてくるのがわかるというEDだ。

あとは女護ヶ嶋と男ヶ嶋だが、さすがにもともと一つの島です男女別れて暮らすわけ無いでしょうという設定は無い。しかしにょことは結婚せずに為朝の説得によって男女一緒に暮らすようになった。

あとは挿絵だな。原作の白縫の構図をまねた絵が2枚あったのはちょっと面白かった。

感想出しづらいなあ。しかしあと2冊だ。近所の図書館が5ヶ月使えなくなるのと急に読む本が増えた時はどうしようかと思ったが、先が見えてきて良かった。

『小学生全集62 為朝ものがたり』 高藤武馬著 筑摩書房 1955年

昭和30年。おそらく『為朝物語ー椿説弓張月』 高藤武馬著 春陽堂書店 1977年とほぼ同じじゃないかな。77年版の方が漢字が多くて少し文章も難しくなっているけど。琉球篇もそれなりに省略されているけど原作通りだ。

ただこの昭和30年版は小学生向けと言う事でカタカナが多い。簓江がササラエなのはいつもの事として(ササラエってそんなに難しい字かな?)、ブレイ・セッシャ・ウデマエと言ったわりと基礎的な用語もカタカナになっている。

しかし振り仮名付きの漢字のほうが多いし文章の構成も2段組なので、そこまで低学年向けではないはずだ。基準がよく解らない。

カタカナの真価を発揮するのは琉球篇、いや、リューキュー篇である。

ネイ王女、レン夫人、ショーネイ王、チューフ君、モー・コクテイ、モーウン国師、クマギミ、リ・ユー。

「ウ」ではなく「-」なんだな。佞臣リ・ユーの最期とか言われても何だか私の知っている琉球篇とひたすら違う物に見えると言うか。カタカナにするだけで大分イメージが変わるというか。正直、何処の国?

まあ、高藤武馬版では55年版でも77年版でも琉球篇はきちんと書いてある事が解った。やっぱり皆既存の軍記物が大好きなのかな。

『児童文学全集59 為朝ものがたり』 朝島靖之助著 偕成社 1957?67?年

昭和32or42年。国会図書館のOPACと本に書いてある事が違うんだが、多分復刻版とかかな?ここでは昭和32年説を取る。

この本はひらがなが多いな。1ページの殆どがひらがなで漢字が数えるほどしかないページもある。人名は殆ど漢字だけど。 でも保元の乱の記述などは原作通りで源氏や天皇家が親兄弟で争う=誰がどれだか解り辛いシーンなども原作に忠実である。子供に解るのかと思ったが、昭和32年ならまだ親や祖父母に尋ねれば解ったのだろうか。

この話の為朝の奥さんも白ぬいひめ1人。簓江もにょこも全く出てこない。故にそれまでは原作通りだが為朝が大嶋に流されるシーンからオリジナルが入る。

紀平治・八代(この話では生きている)・白ぬいひめの3人は為朝が流される船に乗り込み4人で共に大嶋に向かう。翌年似て無い娘がいる訳でもないただの悪代官忠重を成敗し、為朝が大嶋を治める。そして紀平治・八代を部下にし白ぬいひめと共に暮らすようになり、やがて為朝と白ぬいひめの間には為丸・朝稚・嶋君の3人が生まれる。

やがて為朝は「まだ周辺の島々に為朝様の配下になっていない島がございます。鬼が島という所です」と言われて、早速紀平治を連れて鬼が島に向かう。女護ヶ嶋や男ヶ嶋ではなくて普通の鬼が島で、住んでいるのは鬼の子孫で形相は鬼だが今は力をなくし普通の人間になっている人々。

そこでシッチョウ・サオリ(後の鬼夜叉)を部下にするが、彼らは船の造り方を知らずこの島から出た事が無い。そこを為朝は

「この島には大木(ヤシの木)がたくさんある。一年もかかったらりっぱな舟をつくれるだろう。のんびりやろうぞ」という訳でヤシの木で船を作った為に島に一年駐留する事になる。これが今回の大嶋に帰るのが遅れた理由だ。

このヤシの木が生えた鬼が島の挿絵は本当に何処の国?って感じだ。

さて、忠重が伊豆から軍勢を攻め込んでくるわけだが朝稚は足利に養子にやる(今度はもう二度度会わない)。為朝・白ぬいひめ・為丸・嶋君・紀平治・八代・鬼夜叉の7人は大嶋から船で鬼が島に逃げ、何年かそこで平和に暮らす。

やがて平家に対抗する為に源氏が全国で旗揚げしたとの話が入ってくるが(何年経ったんだ)、既に白ぬいひめとの間に4人目の子供が生まれた為朝には、もう源氏として大和で戦う気はなかったのだ。ここで源氏が勝ったとしても、いつかまた源氏が滅びる時も来るだろう。とはいってもこの鬼が島で自分の子孫を繁栄させるには島が小さすぎる。

そうだ、今は立派な女王になっただろうネイ王女のいるりゅうきゅうへ行こう。

この話でも琉球に渡る場面で終わるため琉球篇は無い。しかし為朝が17歳の時に鶴を探して寧王女に合う場面は会った。

その時鶴と交換した珠は、大蛇の場面を読み返してみるとどうやら正式なりゅうの珠らしい。そしてネイ王女は敵がわんさかいる訳ではなく「わるいだいじんにりゅうの珠をうみに落とされてしまい、王さまから『とりもどすまでしろにかえるでない』といわれました。しかしこの珠があればネイ王女は立派なりゅうきゅうの女王になる事が出来ます」

こう書くと単なる王位を継ぐものの試練に見えるから不思議だ。中婦君・利勇がいなくで矇雲が封印されたままで阿公もいなくて、なりより尚寧王がバカでなかったからそう見えるのだろう。そしてネイ王女は立派な女王に即位する事ができたらしい。

さて、鬼が島にいる為朝だが、さすがに鬼夜叉とは島で別れることになった。そして、為朝・白ぬいひめ・為丸・嶋君・紀平治・八代・舜天丸のたった7人で船に乗り、りゅうきゅうへ向かう。途中で嵐に見舞われるが何とか切り抜け、青い空の下、向こう岸にりゅうきゅうの国が見えるのだった。

「りゅうきゅう。へいわのくに」

寧女王が治めている、平和の国琉球へ。でED。